「ミコト………」


私は何をしていいのか分からなかった。
幸い、部下がいないのが救いである。
だが、なぜ突然現れたのかわからない。


「辻本に合わせたい人がいる………」

「アンタ………」

「僕は頼まれたんだ。
伊藤に………
だから、来ないなら来ないでいい」

「そう、それじゃあ伝えといて。
『元気でね』って」

「わかった。
お父さんにも伝えとく………」

「ちょっと待って」

「何………」

「お父さんって誰の………」

「辻本のだよ」

「なんで知っているの」

「辻本のお父さんから聞いた」

「ちょっと待ってよ。
何言っているの。
一度もあんたに会わせたことないじゃない」

「そうだよ。
でも会ったことは何度もある」

「………」

「どうするの。来るの」


『神山ミコト』の言っていることが本当なら、お父さんのいる場所を知っているのだろう。
それに私のことも………


「いいわ。案内して」

「うん………」


『神山ミコト』は歩き始めた。
私は『神山ミコト』の後ろを歩いた。
沈黙が続いたが突然『神山ミコト』が話し始めた。


「目的地に着く前に話さないといけないことがあるんだ」

「何………」

「お父さん、重傷だから………」

「何言っているの」


不安がよぎった。


「この前の事件で僕が辻本のお父さんに重傷を負わせたから………」


「………」


「大丈夫、命に別状はないから………
今のところは………」


私は腰に入れたナイフを一本出し、『神山ミコト』に投げた。
しかし、『神山ミコト』に当たる前に止まってしまった。


「なんで………」


「僕に『能力』も『キャンセラー』も効かないよ。
たぶんこうなると思ったから先に言っといたけどよかった。
それじゃあ、行こう。
ナナミも待っているから」


私はしばらくその場から動けなかった。
何が起きているのか分からなかったからだ。


「早く着なよ。置いてくよ」


「待って」


私は頭の中が真っ白になった状態で『神山ミコト』の後ろを歩いた。