悠って呼んでいい?


呼びたいなら、いいよ?

そんな会話をしたのは、ずっとずっと前。


ルシアを膝に乗せて抱きしめる。

お腹に腕を回して背中に顔を埋めれば、ルシアがくすぐったそうに身を捩った。


「くすぐったいよ、悠」



そう言って笑うルシアを幸せな気分に浸りながら見つめる。


ルシア


その名前をもう一度呼ぶ事が出来るなんて。



ルシアって呼んでもいい?


そう聞いた時にルシアが一瞬嬉しそうに顔を綻ばせたのを、私は見た。


一瞬だったけど、ふんわりと温かくなった心。


その時の温かさを思い出すと口元が緩む。


「良かったな。」

そんな私を隣で机に肘をついて眺めていたシリクスが口を開いた。

「羨ましいか、慧大」


ルシアの前でシリクスの名前を呼ぶのはどうかと思ったから、ルシアの前では慧大と呼ぶ事にした。


ニィ、と口元上げればシリクスが肩を竦めた。

「誰も手、出そうなんて思ってないから。」

その言葉に眉を寄せてシリクスを睨み付ける。

「は?ルシアに魅力が無いって言いたいわけ?」


ルシアをぎゅ、と抱き締めればルシアがケラケラ笑った。


「悠、苦しいよ」