ネガフィルムを引き伸ばし機にセットして、
慎重にピントを合わせる。

私が試し焼きをしている間、
春樹はずっと黙って後ろから見ていた。

キャビネサイズの印画紙をセットして、
引き伸ばし機のタイマースイッチを押す。
白黒の反転した空が、
印画紙の上で光の像を結ぶ。

「やっぱり、千里じゃないと駄目だ」

写真を定着液から
ピンセットで引き上げたところで、
やっと春樹が口を開いた。

「なんで千里が現像すると
“色”が出るんだろう」

春樹は暗室の電気をつけて、
濡れたままの写真を眺めている。

「モノクロ写真なのにさ、
俺が撮った時の色に見えるんだよ。
自分で焼いても、白黒にしか見えないのに」

春樹の言葉にびっくりする。

私も、同じ事を思っていた。
春樹の写真は、モノクロなのに色が見える。
青空は青に、
夕焼け空はオレンジ色に。

「めんどくさいから、
自分で焼かないのかと思ってた」

「まあ、めんどくさいんだけどね」

春樹が笑いながら、
写真を乾燥機に入れる。

春樹といとこで良かった。
もし、ただの同級生だったら、
振られてからこんな風に話せない気がする。

ただのいとことしてでも、
春樹が普通に接してくれるのが
嬉しかった。