「チョコケーキでも作ったら?バレンタインなんだし」


あたしと香澄の高校受験はもう終わったから、時間はたっぷりある。

なんとなく、そう言うと香澄は小さく『あ』と驚いた。

多分、バレンタインの事忘れてたんだろうなぁ。


「忘れてたの?」

「…うん」


コクン、と頷いた香澄に『やっぱり』と納得した。


「好きな人とかいないの?」


バレンタインを忘れてたって事は。


「え?す、好きな人?えーと…」


好きな人と言う単語に途端に赤くなった香澄はどうやら好きな人が出来たらしい。

そう言えば、香澄とは恋バナってあんまりしないなぁ。

今日は珍しくあたしから聞いちゃったけれど、普段はあたしから聞くなんて事ないんだよね。


「…ひ、秘密。」


照れて言わない香澄にあたしはつい、ニヤニヤしてしまう。


「秘密?なになに?うちのクラスにいる?」

「ううん?うちのクラスにはいないよ?詳しくは秘密」

「何で?」

「だって、恥ずかしいもん」


さらに赤くなった香澄にあたしはニヤニヤしたまま一人、心の中でホッとする。

だって、あたしの好きな人、このクラスにいるんだもん。

香澄がその人の事を好きになっちゃったら、きっとあたし、勝てないよ。