―――五十嵐のマンション
俺と五十嵐は自宅に戻った。

五十嵐は自宅に帰ったら、必ず風呂に浸かる。

その間に俺は夕食を作る。

五十嵐が風呂から上がった頃には料理が出来ている状態にする。

それからは五十嵐と国や世界について話し合った。

五十嵐には俺や『G』のことは教えていない。

これから数年後には国の代表を目指す五十嵐にとって、信頼できる人は限られている。

その信頼している人の中に俺は含まれているのだろう。

俺は五十嵐の話を聞き、意見を言うことで考えを深めている。

いつ、いかなるときでも自分の言葉に責任を持つ訓練をしていた。

難しく考えれば、夜はそういう時間だ。

簡単に言えば、日々の愚痴を聞く時間でもある。


「―――しかし、ヒサ君は本当に不思議な人だね」

「先生。私は普通の人間ですよ」

「いいや。
………なんだろう。
欲っていうのかな………
そういうものが感じられないんだ」

「それは先生が出世するたびに、給料が上がるからですよ」

「ふん―――………
私の知り合いの秘書は出世するために秘書をやっていると言ってたよ。
つまり、選挙に出馬して当選するために政治家の先生から助けを借りる人だ。
他にも秘書になる理由は親のためやカリスマ性がないとかがある。
でも、君は違う」

「私は先生の演説に共感を得ただけです」

「ヒサ君が何を考えているのかは知らないが、私を選んでくれてありがとう」


五十嵐は頭を下げた。


「先生。やめてください。
むしろ、頭を下げるのは私のほうです。
これまで私を使ってくださり、ありがとうございます」


俺も頭を下げた。

二人とも礼をした状態でしばらくすると、五十嵐は笑いだした。


「すまない。でも出会って13年、初めてお礼が言えて嬉しいよ」

「私もです」


食事を終えて、雑談もした。あとは五十嵐が寝るだけだ。

俺は食器を洗っている最中に、五十嵐は歯を磨いた。


「それでは、また明日よろしくね」


五十嵐はすっきりした表情で寝室に入って行った。


「はい」


俺は食器を拭きながら、答えた。