今まで係員をしていた者が全員、現実世界へ行くのならば、このテントや機材には用はなかった。


「ミコト、頼んだ」


ミコトは頷き、右手をテントに向けた。

手のひらに粒子を集め、圧縮した。

そして撃った。飛ばされた弾はテントに当たった。

何の衝撃音もなく弾は消えた。

命中した場所から分解し始め、やがて全てが塵となった。

俺はその光景を見ていた。


「まるで俺達のようだな」


山本は小声で言った。

ジュリーは山本の足を踏んだ。

少し怒っているようだった。

俺には山本の言いたいことが分からないが、ジュリーには分かるらしい。


「そんなこと言わないの。
タクヤも私達もこの世界に存在したから、向こうの世界で生きられるんじゃない」

「いいや、存在はしていても、それが本当の姿なのか、あるいはこの世界が本当の世界なのかと疑いたくなるんだ」

「山本………
もう少し考えるべきじゃないか」


俺は心配になった。

今まで俺の力になってくれたからこそ、山本の選択に後悔をさせたくはなかった。


「俺は他の奴らよりも知りすぎたのかもしれないな………」


情報屋として、世界中の情報を集めるだけではなく、この世界の『真理』を知っていしまった。

二つの世界を行き来する中で、どちらの世界が真実なのか理解できなくなってしまっている。


「それでも………」


山本は煙草を出し、火を点けた。


「俺は歩き続ける」