『能力』という世界観をもたらすことで、この世界を疑わずに暮らす。
世界には様々な矛盾が存在することも知らずに、それに気づこうともしない。
なぜなら、それほど充実した世界を生きているからだ。

現実世界へ行った人間達は何をしているのだろうか。
アカネを中心に開拓が進んでいるのか。
ナナミは管理者と共に仮想世界を管理しているのか。
心配することは山ほどあった。
山本の話では皆元気にやっているようだ。
もうじき、俺達も現実世界へ向かう。
そして、現実と仮想の道を閉ざすことで、それぞれ世界で互いの役割をこなしていく。

それらを達成するのは子供達だ。
俺の寿命も残りわずか。
今持つ命が最後だからだ。
無限の死を繰り返す中で、俺は数えきれない人間達と出会うことが出来た。
その中には、本当の俺を知らずに死んだ者もいた。
俺がこの世界を出た時、嘘をつくのを止めよう。
これからは真実のみを話せる人間であり続けよう。


「アイド。
一つ提案があるんだが………」


俺はアイドに言った。
やはり、アイド一人に荷物を持たすわけにはいかなかった。
『利害の一致』がない。
俺達にも何かできることはあるはずだ。


「『魂の器は人間とはかぎらない』。
つまり、現実世界では仮想世界の住人達が入れる魂を入れる器を作ろうとしている」


魂のない器とは、機械人形またはクローン技術による魂のない身体を意味している。
現実世界へ行った技術者を中心にその計画は進むはずだが、現段階では生活する環境を築くことを中心にしているため、計画実行はまだ先の話だ。