俺は身体をアイドとは逆方向に向けた。
確かに『共通の敵』が居れば、仮想世界の事など二の次だ。
世界の事を考える前に、一日一日の命を生きて行かなくてはならない。
だが、それは数百年続けなければならない。
いつ終わるかもわからない事を死ぬまで続けなければならない。
でも、『魔王』を演じることで副作用をもたらすこともある。
それは紛争や戦争が起こりにくいという点だ。
『魔王』が存在することで、戦いが起きにくい世界を造り上げることができる。


「いいよ」


アイドは答えた。
俺はアイドの返事をすると振り返った。


「はっ………」


驚いたためだ。こいつは馬鹿なのか。


「ようするに、能力を使って適当に生きてればいいってことでしょ」


確かにアイドの言うとおりだ。
簡単な話がそうすればいい。
別に『魔王』が皆の敵になればいい。
アイド自身が自由に生きていればいいという事だろう。
金を使わず、欲しい物はどんな物でも奪い取る。
世間から見れば面倒な存在になるわけだ。


「お前はそれでいいのか」


俺は確認を取った。


「『G』が解散するなら、俺達の居場所もなくなるしね。
適当に生きてくのも悪くない」

「そうか」


俺は難しく考えていたのかもしれない。
アイドにとっては、それが当り前のような事なのだろう。
俺はアイドのような力を持った事がない。
他者より一歩進んだ人間は世界の感じ方や見方が一般人とは違うとさえ言える。


「ホーク。
こいつはこう言っているが、お前はどう思う」


相棒に聞くと、相棒は小さく頷いた。
納得したという意思表示だ。
アイドは目線を向けた。
『話が終わった』と言いたいのだろう。
答えはYESだ。
ここで、長居しては『選択の石』で待つミコト達に悪い。
そろそろ、皆のところに帰らなくてはならない。


「アイドはまだ自分のやろうとしていることを想像出来ていないのかもしれない」

「それは俺も認識している。
もし、世界に不具合な存在だと確認したら、すぐさま抹殺させてもらう」