俺はアイドに胸を指差しながら言った。
相棒もアイドも、理解していないようだ。


「今、人々の意識は仮想世界という言葉に囚われている。
ならば、人々の意識を別の方向に変えればいい。
その矛先がこいつだ」


相棒は右手を口に当て、考えている。
そもそも、魔王の素質とは何だ………
言った本人でも理解していない。
相棒が理解できるのだろうか。


「つまり、人々にとって『共通の敵』を演じさせるわけだな」


相棒は何かを理解したようだ。


「………ああ」


俺は出来る限り、アイドの顔を見ないようにした。
後で説得すればいい。


「お前はそれでいいのか」


相棒はアイドに聞いた。
俺は視線を今まで以上に逸らした。
アイドは『良い』とも『嫌だ』とも言っても面倒事になるのは確実だからだ。


「『魔王』って何………」


アイドは『魔王』の意味を知らない。
無理もない話かもしれない。
『Infinite Information』の事を知らない者が、俺達の知る魔王を知るはずがない。


「『魔王』とは世界の敵だ。
人々に恨まれ、その命を消すために人々は行動する。
つまり、世界で最も『死』を与えたい者のことだ」


相棒の説明はあっている。
付けくわえるとすれば、『世界で一番強い者が悪の行為で人々を苦しめる存在』だけだろう。


「俺がその『魔王』になると世界はどうなるの」


アイドは髪を掻きだした。
なぜか、興味を示したようだ。


「世界は『共通の敵』を倒すために一丸となる。
一種の催眠のような症状に陥るわけだ。
生きる目的が『魔王』を殺すことか、逃げることしかないのだからな」