―――ある任務の帰り道

俺は高級ホテルのバーに寄った。

人と会う約束もなく、酒を飲みたい気分だった。

俺が店に入り、カウンターの席に座ろうとすると先着がいた。

俺は席を一つ空けて座った。

顔は見ていない。

女だった。


「マスター。
ウィスキーを一杯くれ」


マスターは頷き、後ろに置かれたボトルを取り、グラスに注いだ。

マスターは入れ終わると、俺の手本に置いた。

俺は何も言わずにウィスキーを飲んだ。

半分ほど飲み、カウンターに置いた。

俺はグラスに映る自分の顔を見ながら、任務のことを考えた。

任務の着任時から作戦時、後処理についてだ。


『完璧だ』


仕事にミスが無いかと整理をし終えた。

俺は任務が終わった後、必ず行う。

一種の職業病だと言える。

俺は残ったウィスキーを飲み終えた。

代金をカウンターに置き、立ち上がった。


「マスター、もう一杯ちょうだい」


隣に座っていた女がマスターに話しかけた。

声からして、かなり酔っているようだ。


「お客さん、飲みすぎじゃないか」


マスターは女を気遣った。


「いいのよー、早くちょーだい」

「はいよ」


マスターは呆れた感じで答えた。

俺はどんな客なのか、見たくなり振り返った。

女はスーツを着ていた。

たぶん、仕事の帰り道だろう。

俺が彼女を見ていると、女は俺に気付き、俺を見た。

その瞬間だった。

俺は一目ぼれをした。

ただ『美しい女』と感じた。

俺は女に近づいた。