俺は手帳を閉じた。

そして再びポケットに閉まった。

列を見ると、少しだが進んでいる。


「そこ、列を乱すな」


俺は話に夢中の人達に注意をした。


「すみません」


彼らは素直に謝った。

良い人達だと思った。

この係員をしていろんな人達に注意をした。

たまに襲いかかってくる人もいた。

それに比べれば彼らが可愛いものだ。

ここに並ぶ人達の心理状態は興奮や緊張、不安に悲しみなど様々な気持ちを抱いている。

だからと言って、他人に暴力を振るわないでほしいと思えた。


「お疲れ」


椅子に座っている俺に話しかけて来た。

俺は声だけで誰だかわかった。

山本は缶ジュースを俺に渡した。


「おう」


俺は缶ジュースを開け、飲み物を飲んだ。

一気飲みをした。

水筒の中身が切れかかっていたため、少しずつ飲んでいたため、喉が渇いていた。


「ふーーー」


飲み終わり、生き返るような心地よさになった。


「あと400人だ。
この調子だと一時間程で終わるな」


山本が報告をした。

現実世界にいるナナミと金本達が『選択の石』をコントロールしているため、神山一人では一つの入り口しかできないが、10ヵ所の入り口を造ることができた。


扉に入った者は、管理側が現実世界で過ごす身体を決め、魂を入れる。

そして、現実世界の一歩を踏み出すことが出来る。

一人ずつ扉に入るのは、身体を決める時間を造るためだ。

俺は飲み終えた缶を握りつぶした。

俺も緊張しているのかもしれない。

異様な興奮をしていた。

長い年月をかけた計画を達成できるのだから


「………伊藤」


山本は俺を気遣った。


「大丈夫だ。
それより、どうするか決めたか」


山本は悩んでいた。

現実世界に行くか、仮想世界に残るか。

山本は『才能』に頼りすぎていた。

生活のために調査部隊で情報収集を職にした。

そして、この職は趣味で行っていた。

何度も現実世界へ向かう内に、現実世界での生活に退屈を感じているのだろう。