―――ヘブン国内の山奥
時間は1100時
もうじき、お昼になるだろう。
俺は登山の格好をして、金本から教えてもらった場所に向かった。
通信機の電波もなく、コンパスと地図を頼りに目的地に向かう。


こんな所に人が住んでいるのか………
俺はそんなことを考えながら、前に進んだ。


「あれは………」


俺は遠くに家があるのを確認した。
俺は驚いた。まさか、本当に家があるなんて………
木に囲まれた小さな家だが、電気が付いている。


つまり、人が住んでいるのだろう。
俺は目的地を確認して、気持ちが楽になった。
金本との約束もそうだが、彼が望む『超越者』を作らなければ、次に進めない。
また、金本を探す旅をすれば、時間の無駄を費やすことになる。




―――家の玄関前
俺は玄関の前に立った。
家から物音がする。
やはり、誰か住んでいる。俺は身だしなみを整え、インターホンを鳴らした。
しばらくして、女性の声が聞こえた。


「は―――い」


玄関を開けた人は優しそうな女性だった。


「どちら様ですか」

「私、井上博士の知り合いで、柴田セイジと申します」


俺は金本に指示された通りに言った。
本名は語らない方がいい。
金本の話から考えて、今から会う人は『W』と関わりのある人だろう。
つまり、『W』に興味があり、本を書いていると言えば、ある程度の親しみ感を持ってもらうことができる。


「あら~、井上博士って誰ですか」


女性は答えた。
とぼけているのか、それとも本当に知らないのか。


「人間生物学の井上博士です。
『クローン技術』の………」


俺は女性に説明した。


「………よくわからないわ。
それだけですか」


女性は俺に聞いた。
俺は頷いた。


「そうですか。それでは………」


女性は扉を閉めた。


「はっ………」


俺は動揺した。
何か悪いことでも言ったか。
いや、俺は金本の話した通りに行動した。
俺には落ち度がなかった。
話が違うじゃないか………