俺が資料を呼んでいると山口が話しかけてきた。


「………どうしました」

「すまない」


俺はバインダーから山口に視線を向けた。


「少し、買い物に付き合ってくれないか」

「わかりました」


先程の会話を聞いていたため、すぐに返事をした。

山口は俺に背を向けた。

買い物をするために1階に降りなければならない。

また、アパートなので通路はせまい。

人一人がやっと通れる広さだ。

このため、先に階段を登った順とは逆に降りなければならない。

この瞬間、山口は俺に数秒間の隙を見せることになる。

俺は考えた。


<井上研究所に戻った場合>
・明日の深夜『G』の襲撃に巻き込まれる。
・戦闘で死ぬ可能性がある。
・仮に襲撃を防いだ場合、再び施設警固で無駄な時間を過ごす。


<井上研究所に戻らなかった場合>
・『W』の『過激派』を辞めることになる。
・明日の深夜『G』の襲撃に巻き込まれない。
・調査した情報を今後に活かす。
・俺自身は別の手段で『W』を調査したい。