「僕の話を……?」

美優は切ない笑顔を見せる。

「オレより頑張ってるやつを初めて見た。あいつはオレと違って才能もあるんだ。オレなんかより、あいつが試合に出るべきなんだよ。って凄く嬉しそうに」

美優は何かを隠す為に後ろを向いた。

それが何かは、声の震えで容易に分かった。

「そんなお兄ちゃんが、この前帰って来た時に泣いてたんです。出たかった、試合に出たかった、ちくしょう、ちくしょう。って」

悔しくないはずなど無いのだ。

それでも、そんな顔は少しも見せずに笠井は翔の背中を押した。

精一杯の勇気と、ありったけの強がりとで。

「こんなこと私が言うのも変ですけど。山田先輩はどうかそんな顔しないでください。」

振り返った美優がまた笑う。

「お兄ちゃんの分まで胸を張って頑張って欲しいんです。いつかお兄ちゃんがまた笑ってサッカーボールを蹴れる様に」

翔の目から涙がこぼれていた。

それを美優がやさしく手で拭う。

「だから、いつもみたく笑ってください」

目を閉じたら、大粒の涙が頬を伝って、小さな手の中に落ちていった。

「うん。……うん。ありがとう」