カモミール・ロマンス

手足から温度がなくなっていく。

「美優ちゃんのお兄さんが、笠井先輩?」

ドクッドクッ。という鼓動にあわせて目の前がチカチカとした。

美優は少しうつむきながら言う。

「お兄ちゃんはサッカーが本当に好きで、小学校にあがる前から毎日毎日練習をしていました」

部活が終わった後、一番最後まで走っていた人を翔は知っていた。

皆が出ていった部室を1人で掃除していた人を翔はずっと見てきた。

「でもお兄ちゃんには才能がなくて。高校に入るまで、どんなに練習しても試合に出ることはできなかった」

練習中には決して見せない表情で、青いタオルをかぶりロッカーをじっと見つめていたことを知っていた。

そこに書かれた文字を、ただじっと見つめるその背中をずっと見てきた。

「でも、去年の秋頃からお兄ちゃんは家でサッカーボールを蹴らなくなりました。それと同じくらいから山田先輩の話をするようになったんです」