ガタンタタン。

帰りの電車がどこか行きの電車よりも優しく揺れる。

それはまるで揺りかごのようで、勇気と翔、そして美咲は眠っていた。

「…………疲れたな」

街の灯りを覗き込みながら頬杖をつく直也。

陽に焼けて赤くなった自分の顔を見て笑う。

「…んあ、来年も海行こうなぁ……」

「ユキ!起きてたのか……って寝言かよ」

すやすやと眠る勇気を見て直也はぷっと吹き出した。

そして優しい表情で美咲を見る。

「こいつは何で昔からこう無理な状況のやつばっかり好きになるのかね……

今のユキは沙織ちゃんしか見えてないのにさ」

隣で幸せそうに寝息をたてている美咲のおでこを人差し指でコンと小突く。

「……んんー」

すると美咲が唸ったので、また直也は窓に肘をつき、頬杖ですっかり暗くなった空を見た。

「もうちょっとで2学期か……早いもんだなぁ」



直也の呟きを飲み込んで電車はゆっくりと走っていく。

夜までなき続ける蝉の声が響き渡る。

温かな風も心地好くて、2人で見たオレンジの光と波の音が、美咲の中でいつまでも響くのだった。