翌々日。

翔はマスクをしながら登校した。

「翔もう大丈夫なの?夏風邪ってしつこいって聞くわよ?」

まだ少し咳がでる翔を心配する美咲。

「熱はすぐに下がったし大丈夫だよ。まだ喉の痛みがあるけどね。

それより今日のテストが心配で心配で」

オーラルコミュニケーションの教科書を眉をひそめて見ながら言う翔。

「大丈夫大丈夫。ほら、あそこにも死んでるやついるから」

そう言って美咲が指差した先では、やはりオーラルコミュニケーションの教科書を手にうずくまっている勇気。

「ユキ、翔が風邪ひいてる間にとうとうあの子の名前聞き出せたらしいよ。

翔もうかうかしていらんないね」

少し意地悪く言った美咲。

翔は勇気を見ると、優しく笑った。

「そっか良かった……」

小さく呟き、美咲を見て言う。

「でも僕だってうかうかしているわけじゃないんだからね」

「えっ、それって……何よぉ何があったのよ翔ぉ」


問い詰める美咲との間にわざとらしく教科書を滑り込ませる。

一番奥の窓だけが開いていて、そこからちょっぴり暖かな風が吹き込む。

「くすっ……」

美咲は翔と勇気を見て笑った。

「え、なに?」

「ううん。翔もユキもまるで夏風が便りでも運んできたみたいに、窓の外を見たから」

柔らかく微笑んで美咲は自分の席に座る。

「夏風の便りか……確かにそうかもね。

僕の場合は夏風邪だったけどね」