夕暮れのバス停。
黒い髪が夏の風でなびいて、胸をくすぐるりんごの香りが勇気に届く。
「あ、あの……」
勇気が遠慮がちにそう言うと、沙織は笑う。
「お久しぶりです。またお会いしましたね」
(あ、覚えていてくれたんだ……やばい、超、超うれしい)
何台も通り過ぎていった車のエンジン音さえも勇気の耳にはもう届いていなかった。
風が草を擦る音と沙織の声。
それだけが勇気の鼓膜を震わす。
「良かったらお話しません?」
沙織からの提案に勇気の胸が破れてしまいそうなほどに、強く弾む。
「はい、もちろん!」
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