「ごちそうさま…」

「あら、もういいの?」

「ちょっと食欲ないんだ」



今日の夕食は、キムチ鍋だった。

いつもなら、モリモリ食べるんだけど、今のあたしは、この“辛い(からい)”が、そのまま“辛い(つらい)”に変わってしまいそうだから。


お母さんとお父さんが、しょんぼりと心配そうにあたしを見ていた。

「そうか…」って眉を垂らすお父さんが切ない。



ごめん、久しぶりにお父さんの帰りが早くて、三人一緒にご飯食べられるのに。

ごめんなさい。



手すりを擦りながら階段を上り、突き当りの自分の部屋に入った。

薄暗い部屋。

いつも面倒くさがって戸をしめていない窓からは、ぼんやりと月が見えた。



満月でも、三日月でもない、中途半端な月。

でも、すごく綺麗。



あたしは、電気をつけずに、ベッドに寝転んだ。

あ、何か…眠たい。すごく。




まだ7時半なのに、あたしは目をウトウトさせた。

今日は昼寝までしたのに。



瞼の裏で、あの長いまつげがチラつく。



人は現実から目を背けたくなると、眠くなるらしいってどっかで聞いたな。

どこだっけ。