クリスマス・ハネムーン【ML】

 他に、予備で、たとえばポケットに持っていたとしても。

 財布を取られたっていうことは。

 その予備でさえ、ハニーが管理できる手元にあるとは、思えない。

 それは。

 ハニーの命の期限が、本当に、切られてしまったっていうこと。

 このまま放っておいたら、確実に死ぬっていうことなんだ……!

 その事実に、愕然として、目の前が暗くなった。

 ハニーが死ぬ。

 昔、僕の姉が死んだように。

 クリスマスから、そう経っていない年の瀬に。

 今度は、雪の降らない外国で。

 愛するヒトが死ぬ……?

 もし。

 そんなことが起こったなら。

 僕は、もう。

 絶対耐えられない。

 ハニーが死んだら僕も死ぬ。

 例えこの身は生きていても、精神(こころ)が保たない。


「お師匠さま!」

「相模さん!」

 思わずその場で、座り込みそうになった僕を、ジョナサンが支え。

 僕の様子に、声をかけてくれた二人に、手を振った。

「僕は、大丈夫。
 でも……!」

 コトは、一刻を争い。

 もう、何もためらっている場合じゃなかった。

 僕は、まるで守るように支えてくれたジョナサンから身を離し、きっぱりと言った。

「やっぱり、絶対。
 僕も捜査に加わります」

「だから、それは」

 ダメだと言うジョナサンを制して、僕は言った。

「身内じゃないと、捜査協力出来ないと言うなら……僕は、霧谷さんの家族です」

 僕は、告白をためらわない。

「また、心配だからって!
 ウソなんてついちゃいけませんよ!」

 佐藤とジョナサンに、異口同音に言われたセリフに、僕は首を振った。

「ウソなんかじゃないです。
 僕の、本当の名字は『相模』じゃなく『霧谷』と言います。
 霧谷さんの籍に入ってすぐに、この国に来たので、パスポートは、まだ旧姓のままですが。
 日本に問い合わせれば僕の本名は『螢・ヴァルトヒェン・霧谷』になっているはずですから!」