クリスマス・ハネムーン【ML】

 僕は、ため息をついた。

「なんか、気分が萎えた。
 助けてもらって悪いけど。
 今回は、止めておく。
 夜にでも、パスポート持参で、ハニ……いや、霧谷さんと来ることにするよ」

 そう、手を振って、カジノの入り口とジョナサンから、離れようとすると。

 なぜか。

 ドアボーイに片手を上げて、挨拶をした彼が、僕の後からついて来た。

「……?
 もうすぐ昼だし。
 後はコテージに帰って、昼飯の用意でもしながら霧谷さんを待つだけなんだけど?」

 別に、昼食は僕が改めて作るまでも無く。

 冷蔵庫には、昨日佐藤が作り、全員が食べ損なった夕食が、冷えていたし。

 他には。

 さすが、パンが主食の国。

 固くて、長くて、太い……(こんな言い方をすると、ちょっと下品な)……バゲットが何本も紙袋に突っ込んでたから。

 僕が、腕を振るう必要は、無いんだけど。

 冷えたままの料理を。

 保存容器のタッパーのまま、食卓に乗せる気はなかったし。

 特に、ついて来なくでもいいよ、と手を振った僕に、警官が笑った。

「俺、護衛の最中だから」

「……は?
 ボガートさんは、僕が眠っていた間だけ、だったろ?
 もう、これから昼寝の予定は、ないよ?
 だからあとは、霧谷さんの方に行って欲しいな。
 桟橋に回れば。
 沖に出て行ったボートが、まもなく、来るんじゃないの?」

「Youは、桟橋に行かないのか?」

「……別に、予定には、入れてないけど」

 人が大勢居る場所でハニーと会っても。

 抱きしめあうどころか、手だって、握れないし。

 ここは、ハネムーン客が山ほどやってくる場所だ。

 他の異性同士のいちゃついている姿を見て。

『なんでも無い』って言いながら、落ち込むよりは。

 部屋に居た方がよかったから。