辺りは、まるで。

 深く、暗い、海の底のように静かで。

 僕は、自分の苦しい胸から解放されようと。

 少しでも、楽な呼吸をしようとあがいていた。



「こ……のっ!」



 僕の行く手を阻む、最大の難関は、意識の無い。

 ぐったり力が抜けたハニーのカラダだ。

 まさか。

 愛しい男(ひと)を邪険に出来無いし。

 だからといって、本気になって、ハニーを動かすつもりだとしたら。

 半端なことをしている場合じゃなかった。

 普段はともかく。

 こんな時ばかりは、ハニーとの体格差が恨めしい。

 散々、苦労して。

 最後のその時まで、僕を抱きしめて離さなかった、ハニーの腕から抜け出すと。

 僕は、ようやく、大きく吐息をついた。


「……やれやれ」



 手探りで、照明を探し出し。

 ぱ。

 と明かりをつければ、そこに。

 胸の強い圧迫感のために、僕がまともに息が出来なくなった原因が広がっていた。

 ……って。

 大げさか。

 ここは、グレート・バリアリーフに来た時に最初に借りた海の上のコテージで。

 僕のベッドで、裸のハニーが、うつ伏せに眠っているだけだし。

 僕は、冷蔵庫からミネラル・ウォーターのペットボトルを取り出すと。

 ハニーの寝顔を見ながら、少しだけ、飲んだ。



 ……


 ハニーが持って来てくれた山盛りの果物を。

 佐藤とジョナサンに冷やかされながらも、楽しく食べて。

 ようやく、食事を取ることが出来るようになった僕は。

 条件付きで、退院を許可されて、コテージに帰って来ることが出来た。

 けれども、その条件が。

 僕の半身に出来た『傷』のために。

 愛の交換、厳禁と言うヤツだったから。

 ……僕達はせめて、お互いの体温を感じて眠ることにした。