「……螢(ほたる)」
ハニーの声が僕を求めて。
早足で近づいて来る。
僕がずぶ濡れになっているのにも構わずに。
抱きしめようと伸ばされた手に。
当たり前にのようにすがろうとして、僕の時は、止まった。
……僕は、この腕の中に帰れない。
「螢……?」
「ケイは、もうお前のモノじゃねぇ、とよ!」
僕の一瞬のためらいをえぐるように。
立ち上がった岩井は、僕とハニーの間に肩を入れた。
「コイツは、オレが、いただいた。
……もちろん、いろんな意味でな。
それで、てめぇが汚ねぇ、闇社会の人間だって自覚して。
お前を捨てて、もとの場所に、戻るとさ!
あははは~~!」
「螢!!!」
どうしても。
……どうしても。
違うと。
岩井の言葉を全面否定することが出来ずに。
黙った僕に、岩井の嘲笑が響き。
ハニーが、悲鳴のように僕の名を叫ぶと、ひどくゆっくりとつぶやいた。
「ウソだ……!
君は、もう。
私の元から、絶対に離れていかないと。
ずっと、ずっと一緒に居ると……誓ったはずだ」
「……」
「螢君に昔の生活は、もう出来ないことを知っている。
だから、こんな男の言うことなど信じない。
……螢。
私と一緒に帰ろう」
そう言いながら、もう一度伸ばされたハニーの手を。
僕は拒否して、一歩下がった。
「……螢」
傷ついた、ハニーのため息のような声に、僕は、首を振る。
「……ごめん、ハニー。
僕も出来ることなら、そうしたかったよ。
でも……無理だ」
「螢!!!」
表面的な、冷静さを失って。
魂消えるような声を張り上げたハニーに。
僕は、なんとか、微笑んでみせた。



