演奏を終える。


鍵盤から指が落ちる。


だらりと腕から力が抜けた。


―――違う。


俺が奏でたいのは、こんな音じゃない。


でも、何が違うのか分からない。


(くそったれ・・・!!)


うつむいた姿勢で、俺は悩んでいた。


そのとき。


トントン。


ノックの音がした。


「誰だ?」


俺は顔を上げて、扉の向こうに声をかける。


「わたしです。入っていいですか?」


音羽の声だ。


「・・・ああ」


ガチャリ。


扉を開けて、音羽が部屋に入ってくる。