屋上に、いた。


「音羽」


俺はその少女の名を呼ぶ。


少女がこちらを振り返る。


その手には傘が握られていた。


「待ちくたびれましたよ」


「ずっと待っていたように言うな」


「ばれました?」


「愚問だからな」


叙業が終わってすぐに教室を出たのだから、そんなに待たせるはずがない。


音羽が傘を差し出してくる。


「この傘、ありがとうございました」


俺は気にするな、と言い、音羽から、きれいに畳まれた傘を受け取る。


「・・・どうして、私に傘を貸そうと思ったんですか?」


不意に、音羽が尋ねてきた。


「・・・言ったろ。俺の主義に反するって」


「なんです?それ」


「雪の中、傘も差さないような馬鹿を放っておくような奴にはなりたくないからな」


照れくさいので、顔を背ける。


「それって、私が馬鹿だってことですか?」


「気づいてないなら大馬鹿だな」


俺はククッと笑って、背を向ける。


背後から文句が聞こえたが、無視してその場を後にした。