ワンテンポ遅れて、ナイフを握り締めていた男の手の平から何かが流れ出てきた。 ぽたり、と。 あたしの頬に垂れた、生温かいそれ。 血。 真っ赤な鮮血。 月光を受けて綺麗とすら思える鮮血に、あたしはゆっくりと目を細める。 ――――できなかった。 生憎、男の表情は前髪に隠れているため見えない。 確認できないけれど、なんとなく眉間にシワが寄っている気がした。