『次ぃぃぃぃーーーッッ!!

次ァ誰だぁーーーッッ!!』


物思いにふけっていた僕を、とびきり機嫌の悪そうなダミ声が現実に引き戻してくれた。全くもって有り難い………。


「グリフィンズ・ネスト」の専属教官の一人、ディック・ブラウン軍曹。37歳、独身。


「優秀な後進を育成する為に、軍にこの身を捧げた」と常々放言し、それを婚期が遅れた理由にしているのだが、「ただ単にモテないだけ」という意見が生徒間の大多数を占めている。


二流のプロレスラー崩れのようなゴツい体格と、少し生え際が後退した赤毛から、僕たちは陰で「赤毛熊」と呼んでいた。


通信設定のサイレントモードが切られていた。教官用の通信強制介入コードを使えば、例えこちら側で音声をオフにしていても通信が入る。


改めて通信を開き、ダミ声に返事をする。


「……12番、ジョセフ・グラント!

これより配置に着きます!」


一呼吸ほどの沈黙のあと、再びダミ声がコクピットを震わせる。


『貴様か、グラントぉ……。』


映像は途絶えていたが、その声の響きは、正しく熊が舌なめずりをするようなイメージを思い起こさせる……。


『正直に言うがな……。俺ァな、お前が一番最初にシッポ巻いて元の訓練校に帰る、そう思っていた。

ところがどうだ、まさかお前みたいなモヤシが卒業どころか、主席候補の一角とは、な。誉めてやろう……。』


(……そりゃどうも。)


この教官の性格上、誉めるだけでは済ないのが目に見えている。


話半分に聞いておいて、さっさと配置に着く事にした。





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