「選ぶ意味なんかないわよ。結局全部あたしなんだし」


そう言うとパッと顔を輝かせ、彼が大きく頷いた。


「それもそうだね。結局俺は智子さんを全部好きってことだ」


ストンッと、また真っ直ぐに投げられた言葉に、正直動揺した。

だけどそんな風にあたしに投げられた彼の言葉は、しっかりとあたしの心に積もってゆく。

調子良く言っていたり、ましてや計算なんかじゃない。

それがなぜか確かに感じられた。


あたしはふと、小さく笑った。


「悪くないかも」

「え?」


ぽそりとあたしは呟いて、手元の本を鞄に戻した。


「悪くないって言ったの。行きましょ、空人」


さりげなく言ったつもりだったけど、彼は自分の名を呼ばれたことに素早く反応した。


「智子さん!」

「行くわよ」


まるでしっぽを振ってるみたいにウキウキとついて来る空人を、初めて愛しいと思った。