鼻歌をうたいながら、玄関で靴をはきかえる。
さ、お家に帰ろー……
「また逃げるなんて、いい度胸してんな、野宮」
「ひっ」
耳元で囁かれた甘い声。
あたしは反射的に飛びのいて、玄関入口のガラス戸に、背中をぶつけた。
そこにいたのは拓海くん。
お姉さま方の包囲網から、もう抜け出してきちゃいましたか!
もう少しゆっくりしていただいても、一向に構いませんでしたのに!
「俺を置いてくとはな」
「あ、ははは~。その、えっと、あたし急いでて」
「わざとなんじゃないの」
「え、え?」
拓海くんも靴をはきかえて、あたしの前に立つ。
あまりの近さに、拓海くんの靴の先しか見られない。