「野宮」
うっ。
右隣りから低い声に呼ばれて固まる。
「これ歌って」
拓海くんがそう言って選曲本を指す。
残念なことに、ちょっと得意だと思ってる曲だった。
で、でもここで歌えるって言っちゃうのはマズいよね。
菊池くんに歌ってって言われた方が先だったし、なによりも篠田さんがまたすんごいこわい顔でこっち見てらっしゃるんだもん。
「あの……ごめんなさい。その曲歌えないや~」
あははと笑ってごまかして、あたしは菊池くんに言われた曲を歌うことにした。
舌打ちが聞こえたような気がしないでもないけど、気のせいってことで。
リモコンで菊池くんが曲を入れてくれて、マイクもとってくれる。
菊池くんの優しさに、なんだか涙が出てくるよ。
あなたがイケメンだったら、確実に惚れてました。
なにげに失礼なこと言ってごめんなさい。