「梓織梨、落ち着いた?」



あたし達は、近くのカフェに入った。



「うん、ありがと・・・」



梓織梨に水を渡した。



梓織梨はそれを飲み干すと、あたしにゆっくりと話をしてくれた。

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【梓織梨】
あたしは、塾の先生が好きだった。

別に付き合ってたわけじゃない。

ただの片想いだった。でも、心の中では先生の事を「マサキ」と呼んでた。

先生の名前はマサキだったから。名字も、漢字も知らない。ただ知っているのは「マサキ」という名前だけ。

あたしは、別に先生と付き合いたいと思ってたわけじゃない。

先生の声を聞くだけでよかった。顔を見るだけでよかった。

だけど――

先生は二ヶ月前、事故で亡くなった。

それからあたしは、恋をするのが怖くなったの――。

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二ヶ月前って、梓織梨が一ヶ月間も学校を無断欠席した時・・・。



あの時は、どうして休んだのか聞いても絶対答えようとしなかったっけ。



「さっきはね、あたしが通ってた塾があって、そこの教室からたまたま塾の先生が見えて・・・。本当ならあそこにマサキがいたんだろうな、って思ったの。ごめん、心配かけて」

「ううん・・・」



何か・・・。



切ない。



あたしは、そんな事も知らずに、大河と梓織梨をくっつけようとした。



梓織梨、ごめんね。