廊下は教室よりかは幾分静かだった。端の方で女の子達のはしゃぎ声が聞こえる。
僕は軽く肩を落として、まだ歩き慣れない教室の前の廊下を歩いた。

…前の俺だったら、『鈴木京香』って答えてただろうな。実は年上好きだったりするんだよ。

でも今は、芸能人なんてどうでもよかった。


頭にあるのは

始業式の彼女だけ。






クラスは隣だったけど、会うことはなかった。

廊下ですれ違うことを期待している女々しい自分が、嫌になるくらい腹立たしい。

会いに行けばいいのにとカズは言ったが、そんな勇気は僕にはなかった。



…はしゃぎ声の女の子達とすれ違う。
混じりあった香水が、廊下の空気を変えていた。

「それはないでしょー!」
「まじあり得ないよね。めっちゃださいって!」

キャハハと甲高い笑い声。
横目で見送った後、僕はひとつ大きなため息をついた。



だっせぇ、俺。