軽く深呼吸をする。
…ここまで来たんだ。もう、行くしかない。
僕は意を決して、チャイムに手を伸ばした。
ゆっくりと、そのボタンを押す。
…ドアが開くまでの時間が、信じられないほど長く感じた。
ガチャリとドアが開き、僕は思わず顔を上げる。
出てきたのは、中年の優しそうな女性だった。
「は、ハロー!」
物凄い日本英語で挨拶をする。
少し驚いた表情を見せた女性に、僕は急いで自己紹介をした。
「My name is シュウヘイ スガワ.I'm…」
「シュウ!?」
驚いた声を出す女性。
驚いたのは僕のほうだった。
いきなり名前を呼ばれ呆然とした僕に向かって、彼女は流暢な日本語で言った。
「あなたシュウでしょう?アスカへの手紙をいつも送ってくれてる!」
…アスカ。
ここだ。
ここなんだ。
知らない国。
知らない場所。
そこで明日可の名前を耳にする。
それだけで、僕は胸が締め付けられるほどだった。



