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気付いたらタクシーは、緑の中を走っていた。
明日可の手紙の住所は、思ったよりも近かった。
広がる緑を窓から見つめながら、初めて明日可と帰った日を思い出す。
ただの田んぼにしか見えなかった緑のコスモス畑。
幼い約束と、明日可の笑顔。
あの頃はただ、毎日が必死だった。
全力でペダルを漕いでいたあの頃。
思い出すと胸が少し苦しくなる様な、全力の恋。
大人になった今でも、僕はその恋に動かされている。
『懐かしい恋』だとは、やっぱり言えなかった。
しばらく行くと、小さな集落が見えてきた。
いかにもカントリーロード的な道を進み、一軒の家の前で止まる。
二階建ての小さな家。
二階の窓には、小さな人形の背が見えた。
…手紙の住所の家だ。
お金を払い、軽く会釈をしてタクシーから降りる。
タクシーの遠ざかる音を聞きながら目の前の家を見つめていた。
心臓の音が、うるさい。



