……………

新幹線を降り、僕は帰りの間ずっと考えていた場所へと足を向けた。

明日可のいない間一度も行かなかった場所。


…あの、コスモス畑へと。


満開ではないものの、いくつかのコスモスが夏の風に揺られていた。


「…強いなぁ…お前らは」


…いつか明日可の言っていた言葉。

今その意味を、ようやく実感する。

どんな季節にもどんな風にも負けずに、こうして毎年綺麗な花を咲かせる。
触ったら折れてしまいそうなのに、その根は決して揺るぐことはない。
向かう先もわからずに、足元の緩い僕とは大違いだ。




…でも、僕も生きている。





コスモスと同じように、僕もこの空の下で息をしている。


そして明日可もきっと…。










「…過去なんかじゃ、ないもんな」









僕はコスモスに向かって呟いた。

もう、迷うことはなかった。


明日可は僕の過去なんかじゃない。


今でも僕は、君の名前を呼ぶことができる。


…呼びかけることが、できるんだ。












僕は携帯を取り出し、このコスモス畑を画面に収めた。