「髪、切らないの?」
別に秋桜がどんな髪型にしようがどうでもよかった。
ただ今の髪型は、どうしても記憶を蘇らせてしまう。
…あの、薄茶色の髪の毛を。
しばらくの沈黙の後、秋桜が口を開いた。
「アスカも、こんな髪型だったんだ」
口元に笑みをたたえ、さらっと髪の毛を触る。
眉間にしわを寄せ、僕は立ち上がった。
「帰るの?」
秋桜の声が背中に響く。
「気をつけてね」
…秋桜のマンションを出てから、僕は歩いて家に帰った。
普段は電車を使うが、今日はどうしても歩きたい気分だったんだ。
秋桜と出会って、もう一年が過ぎていた。
秋桜の家に初めて行った日から、僕たちはたまに飲む様になった。
何を話すわけでもないその空間は、思いの外心地よかった。
しばらくして、僕たちはキスをするようになった。
意味はない。
ただ、キスを交わすだけ。
それが、僕たちの関係だった。



