……………


いつもより長い帰り道。

僕等は何も話さなかった。


いつも背中に感じていた彼女は、傘に邪魔されて遠く感じた。

この距離が、当たり前なのかもしれない。
昨日までの彼女が、幻想だったのかもしれない。

僕等は何が、変わったのだろう。


…気付けばそこは、あのコスモス畑だった。



自然と足が遅くなる。
どちらからともなく、立ち止まった。

右手に持つ傘を見つめる。
たったひとつ、僕等を繋ぎ止めてくれていた存在。

「…傘、長い間借りっぱだったけど…、ありがとう」

ようやく口を開いた僕は、それを彼女に差し出した。

「…うん」

彼女は、それを受け取る。
僕の手が、傘から離れる。

必死につなぎ止めてた糸が、切れた気分だった。


今更、何を聞けというんだ。

僕と彼女を繋ぎ止めていた物はは、もうないんだ。

これでもう、終わりなんだ。


「じゃあ…」


僕はそのまま帰ろうとした。
いつもの様に『また明日』とは、言えなかった。

現実から逃げる様に、彼女に背中を向ける。