コスモス


カーテンのしまっていないその部屋は、街のネオンのおかげで薄暗い程度ですんでいた。

電気をつけずにベランダに通じる窓にもたれかかっていた彼女は、顎で部屋の隅を指す。

「冷蔵庫、ビールあるし勝手に飲んで」

逡巡している僕に目もくれずに、彼女は煙草を取り出した。
薄暗い部屋に、百円ライターの火が仄かに光る。
煙草の煙が、形のいい彼女の口元から吹き出される。


薄暗い部屋

百円ライター

煙草の香り


…無意識に僕は、記憶の迷路へと迷い込んでいた。
腕の古傷が、微かに疼く。


ミニテーブルの上の灰皿に手を伸ばしかけた彼女と目があう。
ふっと吹き出して彼女は呟いた。


「なにしてんの?突っ立ってないでせめて座りなよ」


そう言うと灰皿には手を伸ばさずに、煙草をくわえたまま冷蔵庫を開けた。
無機質な冷蔵庫の音が部屋に響き、ひんやりとした空気を少し感じる。

バタンと扉をしめて、冷えたビールをテーブルの上にコトンと置いた。
彼女はそのままテーブルの横に腰を下ろし、ようやく灰皿に煙草を押し付けた。