あの日の様に軽い口調で話しかける。
その目は強く、どこか遠く感じた。
「…何の用?」
バイト先の人の目をはばかり、僕は歩きながら言った。
彼女は後ろからついてくる。
「こないだ、もらいすぎたから」
車の音にかき消されない様に声をあげる彼女。
足を止め、僕は後ろを振り向く。
彼女の手から、一万円札がのぞいていた。
そのまま僕に突きつける。
「…いいよ、別に」
一度渡した金をあっさり受け取ることはできなかった。
小さな、僕のプライドだ。
「よくないよ。あたしはちゃんと、もらう金額っていうの、決めてるの」
彼女も引かずに手を伸ばす。
仕事帰りのサラリーマンが、不信そうな目を向けた。
それでも黙ってうつむいている僕を見て、彼女はふぅとため息をついた。
「意外に強情なんだね」
目の前の信号が青に変わる。
街行く人々が、早足で通り過ぎる。
その人の波に逆らう様に、僕たちは立っていた。



