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「じゃあ、お先に失礼します」
タイムカードを押し、僕は裏口へと向かった。
あの日から一週間、バイト漬けの代わり映えのない日々。
それでも心に、何かが刺さる。
…誰かが言ってた。
嗅覚は、記憶に鮮明に残りやすいと。
そんなことをぼんやり頭に思い浮かべながら、僕は錆び付いた階段を上がった。
軋む扉を押し開ける。
「あ、やっと出てきた」
…一瞬、錯覚に陥った。
『おそーいよっ』
まさか彼女がいるだなんて、思ってもみなかった。
一週間前とは違い、細身のジーンズを身にまとっている。
腰をおろしていたガードレールから降りる拍子に、あの日の様に黒髪が揺れた。
呆然とした僕に、彼女は近づく。
ますます近くに感じる香りに、僕はめまいがしそうだった。
「君のお友達に聞いたの、このバイト先。お友達探すの苦労したよー。あ、言っとくけど、ストーキングとかはしてないからね。たまたま昨日、学食にいるとこ見かけただけだから」



