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車内の中に響くのは、電波の悪いラジオの音。
時折タイヤが水をひく音が、僕を現実へと引き戻していた。
窓に写るネオンと水滴。
まるでその中に溶け込んでいるかの様に、彼女は座っていた。
お互い、目を合わせようとしない。
先に口を開いたのは、彼女だった。
「…待ち合わせなんてしてたっけ?」
どちらかというと皮肉の込められたその言葉に、僕は二の句がつげない。
「…あーあ、今夜の大事なカモだったのに。せっかくいいお金になりそうだったのにな」
足を組み、綺麗に彩られた爪を見ながら悪びれもなく呟く彼女。
確かに余計なお世話だったと思うが、妙に腹がたって仕方なかった。
「すみません、止めて下さい」
驚いた彼女を背に、僕はタクシーを降りた。
財布から諭吉を二枚取り出し、彼女に押し付ける。
「悪かったな、商売の邪魔して」
半ば投げ捨てる様に札を渡し、小雨の降り出した街へと駆け出した。
後に、なんであんな行動に出たのか気付いた。
…彼女の香水の香りが、記憶とリンクしていたからだ。



