「いいじゃないか、そんな堅いこと言わなくても、ね?」
「もちろんお金は倍払うからさぁ」
彼女の両脇を固める様にして立つオヤジと、明らかに不機嫌そうな顔で腕組みをして立つ彼女。
全ての状況が把握できているわけではなかった。
むしろ不透明な部分の方が多かった。
だけど。
頭によぎる、夕焼けの中の赤い線。
…気付いたら僕は、手を挙げてタクシーを止めていた。
ゆっくりと道の脇に止まるタクシーに「少し待って下さい」と声をかける。
軽く深呼吸をして、ネオンに向かって走り出した。
「ほら、早く行こ…」
「ごめん、待った?」
突然現れた侵入者に驚いていたのは、オヤジだけではなかった。
目を見開いた彼女の腕をつかみ、僕は駆け出した。
止めておいたタクシーに飛び乗り、「出して下さい」と一言呟く。
…水しぶきをあげながら発車したタクシーのバックミラーには、唖然とした表情のオヤジが写っていた。



