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その日もいつもの様に、彼女はげた箱の柱にもたれかかっていた。

始業式の時みた横顔と、同じ横顔。
雨の香りの充満する廊下に、それは変わらず清く綺麗で。


あの日は知らなかった彼女のことを、僕はもう沢山知っている。

彼女の笑顔も、膨れっ面も、笑い声も、もう憧れなんかじゃない。


でも一番知らなきゃいけないことは、まだ知らないままだった。


…僕は、黙って彼女の前に立った。

俯いていた顔が、僕の方を向く。

その黒い瞳に吸い込まれそうでそらしていた目も、今はちゃんと見つめ返すことができる。

僕等は出会った日の僕等じゃなくなった。

じゃあ、僕等は一体何なんだろう。

雨が降れば終わってしまう、タイムリミットのある関係なのだろうか。


後にはなにも、残せないのだろうか。



「…降っちゃったね、雨」

僕が手に持つ水色の傘を見ながら、彼女は呟いた。
落とした視線は、どこか寂しそうだった。

「…家まで、送るよ」

…結局僕には、それしか言えなかった。