……………

「テスト返すぞー!席つけー」

非難の声が教室中に響き渡る。

いつの間にか季節は夏へと変わり、せわしなく蝉が鳴き続けていた。
声は聞こえるのに姿を見せない蝉が、僕はあまり好きじゃない。


「須川ー!」

名前を呼ばれて、僕は席を立った。

「お前どうしたんだ?こんな点数初めてだな。凄いじゃないか」

数学の森先生は、驚いた顔でテストを返す。

「髪も黒く戻したし、ようやく受験を意識し始めたか」

ははっと笑いながら、僕の肩に手を乗せる。
軽く会釈をして、僕は席についた。


…次々と名前が呼ばれる教室の中、僕は視線を窓へと移す。

相変わらずうるさい蝉の声。
目を凝らしても、どこにいるのかわからない。
まるで、僕の様だ。

でも…。

「お、なかなかいいじゃん」

カズが僕のテストを見ながら呟いた。


…もう僕は、見えないからって諦めたりしない。

いくら蝉がうるさくても、耳は塞がない。

目の前の事から一つずつ、探していく。

いつかカズが言っていた、『とりあえず』でもいいから。