『事情』

始業式の日も、カズの口から同じ言葉を聞いた。
彼女に一体、何があるっていうんだ。

いくら考えても、僕にはわからなかった。
わかるはずがない。


「席つけーっ」


ヒロミが教室に来たので、タケはわけがわからなそうに席へ戻った。

カズも僕を気にしながらも前を向く。


わかるはずがないんだ。
だって僕は、彼女のことを何も知らない。

何も知らない。


ホームルームが始まった。
ヒロミの声が右から左へと通りすぎる。

昨日の彼女の笑顔と、あの雨の日の背中が、フラッシュバックの様に浮かんでは消えた。



…やがて僕の中には、放課後への期待を押しつぶすように、少しずつ不安が広がっていった。