ゆっくりと、父さんが近づいてくる。
僕は気まずくて、視線を落とした。
父さんは僕の目の前で止まる。
…次の瞬間、物凄い衝撃が僕の頬を襲った。
口の中が、切れた感触があった。
床にへばりついた僕に、父さんは言った。
「…人様の大事な娘さん連れ出して、何をしてるんだ」
真剣な、父さんの声。
僕は、痛む顔を上げる。
「俺はな、お前の成績や格好なんかどうでもいいんだ。そんな所で親孝行なんかしなくていい」
父さんの拳が、震えた。
「忘れるな!俺より長く生きろっ!それが親孝行だっ!」
目を見開く。
…父さんが僕に怒鳴るのは、これが初めてだった。
びっくりして、心臓が跳ねて…そして、ありがたかった。
そんな父さんの後ろから、そっと母さんが近寄る。
ハンカチで僕の口の傷を拭きながら、その目を涙でぬらしていた。



