力なく、先生の手を握り返す。
窓の外の桜は、もう舞っていない。
うっすらと瞳に涙をためて、明日可は言った。
「…はい…」
…「…その日から、明日可は少しずつ壊れていった。」
一口も飲んでいないコーヒーを見つめながら、話しは続く。
「食事をとらなくなり、感情の起伏も激しくなった。さっきみたいなヒステリーもたまに起こすようになって…。その度、発作の危険が生じていたんだ」
薬が効かなくなると言うことは、明日可の支えが一気に無くなるということ。
今まで必死に乗り越えてきた死への恐怖が、防波堤を失った波の様に、一気に明日可に押し寄せてきたのだ。
「明日可が求めているのは…僕たちじゃない」
誠さんの、視線を感じた。
「…君が、明日可を支えてやって欲しいんだ」
…僕が、明日可を…。
乾いた笑いが、口をつく。
「…買いかぶりすぎですよ」
力なく、僕は答えた。



