入り口で固まったままの僕を押しのけて、斎藤先生が入ってきた。
「明日可ちゃーん、大丈夫だからねー」
子供をあやすような声で、斎藤先生が明日可を横にする。
苦しむ明日可の口に、酸素マスクが当てられた。
「明日可…っ」
「お母さん、大丈夫ですから。とりあえず廊下へお願いします」
若い看護師さんが、困惑するおばさんを廊下へ連れて行く。
同時に、僕も外へ連れ出された。
病室の中は、一気に機械で埋め尽くされる。
その中心にいるのは、痛みに顔を歪める明日可。
…僕等の非現実的な世界が、現実へと戻されていく。
…病室のドアが閉められてから、どれだけ時間がたっただろう。
廊下には明日可のおばさんと僕、そして、お兄さんの誠さんがいた。
誰も何も喋らない。
暖かい昼下がりとは、不釣り合いの雰囲気。
壁にもたれかかったまま足元の一点を見つめ続けていた僕の前に、ふいに缶コーヒーが差し出された。
情けない顔を上げる。
差し出していたのは、誠さんだった。



