黙ったままの明日可。
僕も、何を言っていいのかわからない。
知り合いにでも会ったのだろうか、廊下で挨拶を交わす人の声が聞こえた。
そんなどうでもいいことが響くくらい、僕等の沈黙は続いていたのだ。
「…とりあえず、今日は帰るわ」
…これ以上いても、意味がない。
そう判断した僕は、椅子から立ち上がる。
一瞬、不安そうになった明日可の表情を、僕は見逃さなかった。
それでも何も言わない明日可。
「明日…また来るよ」
それだけ言い残し、僕は病室を後にした。
…結局明日可は、何も言わないままだった。
エレベーターのボタンを押し、一階から上がってくるのを待つ。
一階…二階…ランプが一定の間隔で上がってくる。
それに比例する様に、僕の心に広がる雲。
いつもと違う明日可。
急激に痩せた明日可。
僕の方を向かない明日可。
…ふいに不安をよぎらせる、明日可。
エレベーターのドアが開く。
…しばらくして、誰も乗せていないエレベーターのドアは閉まった。
下がっていく、ランプを見つめる。
…僕は、何のためにいるんだろう。



