コスモス



「…うん!」


静かな住宅街に、ミキの声が響いた。
暗闇に邪魔されて見えないけれど、きっとミキは笑っていると思う。

僕は高く手を上げた。

ミキも同じ様に手をかざしているのが、微かに見える。


…ヒロミの言葉を思い出した。


『守り方は、1つじゃない』


そうだ。1つなんかじゃないんだ。

僕には僕の、ミキにはミキの守り方がある。

明日可を大切に思うのは、僕だけじゃないんだから。



冬の冷たい空気が、僕の肌を刺す。

全身にそれを浴びながら、僕はペダルを漕ぎ続けた。


明日可の想い。

ミキの想い。

僕の想い。


僕はそれら全てを受け入れようと思った。

もう、何からも逃げたくない。

まだまだわからないことだらけで、ヒロミの言う『自分の足場』もちゃんとしていないけど、それでもきちんと受け入れよう。

そこから、僕は始めよう。

もう…、もう何からも逃げたくない。



冬の闇の中、小さな自転車のライトだけを頼りに、僕はひたすらペダルを漕ぎ続けた。